試験データ集銅の力の解明に挑む科学者たち~試験データ集~
銅の超抗菌性能は、各種試験によって、私たちの身近に潜む菌・ウイルスへの効果や、疾病や害虫などへの効果が確認されています。銅は、病院や住居などの衛生環境を保つための資材としても活用されるなど、私たちの健康な暮らしを支える素材として注目されています。
私たちの身近に潜む菌・ウイルスに関する試験
大腸菌 O157
1990年以降、井戸水や給食を介した病原性大腸菌O157集団食中毒が日本各地で発生しています。日本銅センターは旧厚生省の指定検査機関(財)東京顕微鏡院に対しO157への銅の抗菌力効果の確認検査を依頼したところ「極めて高い抗菌効果が認められた」という結果が得られました。
実験は、シャーレの中にO157の菌を含んだ寒天をいれ、その上に3cm角の銅板、黄銅板を置いて菌を培養し、観察する方法で行われました。その結果、銅板、黄銅板のまわりでは菌の繁殖がくい止められ、真下では菌がまったく発育しませんでした。
財団法人北里環境科学センターによる実験でも、O157へ銅の超抗菌効果が発揮されることが分かっています。実験は、シャーレの中にO157の菌を含んだ寒天をいれ、その上に3cm角の銅板、黄銅板を置いて菌を培養し、観察する方法で行われました。その結果、銅板、黄銅板のまわりでは菌の繁殖がくい止められ、真下では菌がまったく発育しませんでした。
黄色ブドウ球菌
北里病院内で使用されているボールペンを使った実験です。
新生児室にグリップ部分を銅で覆ったボールペンと普通のボールペンを設置し、グリップ部分の接触表面の細菌汚染を調べた結果、MRSAなどに対し、銅製ボールペンが大きな超抗菌性能を発揮することが立証できました。
また、銅管を30分間握った手の平の細菌数を調べた結果、銅管に触れた手の平の細菌数が31~68%の割合で減少したことから、銅合金は接触した皮膚面にも抗菌効果を与えることが分かりました。
レジオネラ菌
近年、銭湯や温泉施設などでレジオネラ菌に感染し、命を落とすというニュースが世間の注目を集めました。
レジオネラ菌はもともと自然の中の土や水に生息する細菌で、循環式浴槽、給湯設備などの水や堆肥などから感染するとして恐れられています。このレジオネラ菌に対する銅の超抗菌性能試験を行いました。
試験は2つの方法で行いました。ひとつは超抗菌効果の試験で、銅(C1020)と黄銅(C2600)とステンレス銅(SUS304)の各試験片にレジオネラ菌液を接種すると、銅および黄銅では作用時間に比例し菌数は減少しました。一方、ステンレス銅では減少はわずかでした(左図)。次に、レジオネラを培地に塗抹した後、各試験片を中央に置き発育阻止効果を調べてみると、銅および黄銅では、5.3~6.0㎝の大きな発育阻止円(ハロー)の形成が認められました。(右図)。一方、ステンレス銅では接触した面での菌の発達阻止やハロー形成は起こりませんでした。
これらの試験から銅及び銅合金はレジオネラ菌に対してすぐれた超抗菌性能を発揮することが実証されました。
クリプトスポリジウム
クリプトスポリジウムは、水や人の手を介して感染し、激しい腹痛や下痢を引き起こす病原菌微生物のひとつです。1996年に埼玉県越生町で約9,000人の集団感染が発生し、多くの人が激しい下痢に悩まされました。クリプトスポリジウムは環境抵抗性が強く、水道水の塩素消毒でも死滅しないため、有効な殺菌法の発見は難しいテーマとされてきました。
しかし2003年、北里大学医学部の研究で、銅イオンが有効であることが初めて明らかになりました。実験では銅イオンによってクリプトスポリジウムのオーシスト(クリプトスポリジウムを覆う硬い殻)の形がくずれたり、壊れたりすることを発見。この銅イオン処理をしたオーシストをマウスに感染させて試験したところ、クリプトスポリジウムの感染性が不活性化する事がわかりました。まだ実験レベルですが、クリプトスポリジウムの集団感染に対する予防効果が期待され、特にライフラインである銅の水道管への関心が高まっています。
新型コロナウイルス
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、2019年末に世界で最初の患者が報告されてから瞬く間に世界中にパンデミックが拡がり、日本国内でも2020年1月に患者が初めて確認されました。
日本銅センターでは銅の抗ウイルス性能の検証のため、奈良県立医科大学の協力を得て、銅及び銅合金の「新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する不活化効果」に関する評価試験を行いました。
試験材は銅(無酸素銅C1020)及び銅合金(黄銅2種C2680)、比較の為にステンレス鋼(SUS304)の3種類とし、その試験材に新型コロナウイルスを接種し、4cm角のフィルムで被覆しました。それぞれ5分、10分、15分の作⽤時間後、PBS 液を用いてウイルスを回収し、ウイルス感染(PFU/mL)をプラーク法にて算出しました。
結果として、銅及び銅合金はわずか10分間でウイルス感染価の検出限界値まで減少し、この時の減少率は99.997%でした。本試験で使用したC1020およびC2680は、新型コロナウイルスを速やかに不活化することが判明しました。
A型インフルエンザ
冬季にかけて流行するインフルエンザは、密閉空間では感染力が非常に強く、特に高齢者などは肺炎などを併発し、重症化しやすい傾向にあります。このA型インフルエンザウイルスに対しても、銅はすぐれた抗ウイルス効果を発揮します。
銅(C1020)やステンレス銅(SUS304)の各試験片上にインフルエンザウイルス液を接種し、25℃で所定時間作用させ、単層培養細胞上に形成されるプラーク(ウイルスの増殖により細胞が死滅した痕)の数としてウイルスの感染価を測定する実験を行った結果、ステンレス銅に比べて、銅に接触したウイルスは30分間で完全に感染性が不活化(感染価が検出限界以下まで減少)されることが分かりました。
また、 別の実験では、銅(C1100)の表面にA型インフルエンザウイルスを接触させ、経時的に感染数を測定した結果、1時間後に接種量の75%相当のウイルスが死滅しました。その後6時間後には、0.025%まで減少しました。
よって、大流行しやすいA型インフルエンザウイルスの感染対策にも銅および銅合金の利用が期待されます。